2011年04月30日

おすすめの本・小説●“泣ける”感動作●八日目の蝉(角田 光代)

逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。

東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。

偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。

心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。

第二回中央公論文芸賞受賞作。


もとは’05年11月から’06年7月まで「読売新聞」夕刊に連載された、直木賞作家・角田光代の“泣ける”感動作。

’06年に創設された「中央公論文芸賞」の’07年第2回の受賞作。


檀れい、北乃きい出演によりNHKでドラマ化され、’10年4・5月に放映された。

そのDVDも発売されている。

また’11年4月には永作博美、井上真央出演で映画化、29日からGW全国ロードショーもされる。


不倫相手の乳幼児を誘拐し、3年半も逃亡生活を続けた野々宮希和子。

彼女により薫と呼ばれて暮らし、希和子逮捕と共に本当の親元へ帰され、今は大学生となった秋山恵理菜。

しかし恵理菜もまた妻子ある男の子供を身ごもる。

希和子と薫の逃亡生活を三人称で1章、2章では一人称で主に恵理菜のことを描きながらも希和子事件の実際のあらましにも触れている。

この小説からは、このふたりの“母性愛の強さ”を感じないではいられなかった。

世間一般には「犯罪」として、また「愚かな女」として「間違ったこと」をしたシチュエーションだろうけれども、すべてを捨ててもただひとつの大切なものを守りたいという思いが行間から切々とうかがわれるからである。



新聞連載小説でありながらこれほど魂が揺さぶられる物語を読んだのは、吉田修一の『悪人』以来であった。

とりわけ、ラスト数ページの希和子の描写が、ここまで読んできた者のこころをしっかりと捉えており、言葉ではいえないほどの余韻を残している。


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posted by ホーライ at 15:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 感動する小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

おすすめの本・小説●人生に疲れたら、ちょっといいよ●阪急電車(有川浩)

隣に座った女性は、よく行く図書館で見かけるあの人だった…。

片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。

乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。

恋の始まり、別れの兆し、途中下車―人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。

ほっこり胸キュンの傑作長篇小説。


阪急今津線。

全部で8駅。

片道たったの15分という電車を舞台にした短編連作です。


出会って恋が始まる男女のすぐ側には、元婚約者の結婚式で闘ってきた女がいる。

彼女が降りるのを見送るカップルは、身勝手な暴力男と彼の横暴に耐えている女。

偶然乗り合わせている彼らにはそれぞれの人生があって、電車に乗っているわずかの間に、彼らの人生がほんのいっとき交わる。

この今津線というのは作者が住んでいるところだそうで、ツバメの駅なども、本当にあるそうです。

「空の中」「海の底」のような大事件が起こるわけではなく、ほんの日常の一部を描いたほのぼのとした雰囲気の本でした。



若い本好きの男性が図書館で好みのタイプの女性と出会い交際に発展する場面で若き日を思い出し、胸をギュッと鷲掴みにされる。

女子大生が我侭で暴力ダメ男と別れを決意する場面で、そうだ!そんな男はダメだぞ!と助言したおばあちゃんの後ろでエールを送る。

美人OLが5年も付き合ってきた彼氏を「ちゃっかり女」に横取りされ結婚式でささやかな復讐を果たすが自身も傷ついていれば、そんな馬鹿な奴はこっちから願い下げだ!怒りつつ、一方で、そんな間抜けが居るか?とか、その「ちゃっかり女」が自分の娘だったらどうしよう?と思いつつ、自分のささやかな人生の分岐点を振り返る。


各駅毎に与えられたそれぞれのエピソードに喜んだり、おろおろしたり、怒ったりと、作者の術中にどっぷり嵌っている自分がいた。恋愛って良いなーと。


人生に疲れたら、ちょっといいよ。


しかし、この作品は軸が有る。それは、義である。正義という程偉そうなものではなく、人が人として生きていくうえでのマナーみたいなものだ。

それは実はかなり強力なエネルギーを作中から凛として放出している。

このエネルギーは健全でまともな精神を持つ良き人や人生これからの若い人には生きる活力として機能するだろう。

人に誇れるような人生を構築したいと思いながら行動が伴っていない私のようなダメ親父には痛みを伴う力となる。

貴方は相手に義を尽くしていますか?自分に誇りがもてますか?と。

 
良薬口に苦し。

足つぼで痛いつぼを微笑みながら押してくる整体士のような本だ。

しかも、一見やさしそうで器量の良い整体士だから困る。

痛い目にあうと知りつつまた行きたくなる。

 
もし貴方が私のように少し後ろめたい人生を歩んできたダメ親父なら、取り扱いに注意されたし。


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posted by ホーライ at 13:04| Comment(0) | TrackBack(0) | より楽しく生きるために | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする