東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。
偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。
心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。
第二回中央公論文芸賞受賞作。
もとは’05年11月から’06年7月まで「読売新聞」夕刊に連載された、直木賞作家・角田光代の“泣ける”感動作。
’06年に創設された「中央公論文芸賞」の’07年第2回の受賞作。
檀れい、北乃きい出演によりNHKでドラマ化され、’10年4・5月に放映された。
そのDVDも発売されている。
また’11年4月には永作博美、井上真央出演で映画化、29日からGW全国ロードショーもされる。
不倫相手の乳幼児を誘拐し、3年半も逃亡生活を続けた野々宮希和子。
彼女により薫と呼ばれて暮らし、希和子逮捕と共に本当の親元へ帰され、今は大学生となった秋山恵理菜。
しかし恵理菜もまた妻子ある男の子供を身ごもる。
希和子と薫の逃亡生活を三人称で1章、2章では一人称で主に恵理菜のことを描きながらも希和子事件の実際のあらましにも触れている。
この小説からは、このふたりの“母性愛の強さ”を感じないではいられなかった。
世間一般には「犯罪」として、また「愚かな女」として「間違ったこと」をしたシチュエーションだろうけれども、すべてを捨ててもただひとつの大切なものを守りたいという思いが行間から切々とうかがわれるからである。
新聞連載小説でありながらこれほど魂が揺さぶられる物語を読んだのは、吉田修一の『悪人』以来であった。
とりわけ、ラスト数ページの希和子の描写が、ここまで読んできた者のこころをしっかりと捉えており、言葉ではいえないほどの余韻を残している。
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