2014年04月28日

お勧めの小説■ハードボイルドな『愛こそすべて、と愚か者は言った 』沢木冬吾著

始まりは深夜の電話だった―。

七年前に別れた久瀬の息子の慶太が誘拐された。

犯人から身代金の運搬係に指定されたのは探偵の久瀬だった。

現場に向かった久瀬は犯人側のトラブルに乗じて慶太を助けることに成功するが、事件の解決を待たずに別れた妻・恭子が失踪してしまう。

久瀬は恭子の行方と事件の真相を追いながら、再会を果たした慶太との共同生活を始めるが…。



「愛こそすべてと愚か者は言った」なんて、なんちゅう題名と思いながら購入したもののかなりのツワモノでした。

人物描写も伏線の張り方も、すばらしいっ!!の感嘆です。

主人公の久瀬雅彦と息子 慶太との関係、三神と朋園との親子関係が、事件とは別のラインで描かれていて、親子関係を修復できた方が最後は勝つんですねぇ。

ハードボイルドな久瀬こそ、僕が目指す姿だ。








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2014年04月27日

エッ!?って思うこと間違いなしのミステリィ小説『葉桜の季節に君を想うということ』

「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。

そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命の出会いを果たして―。

あらゆるミステリーの賞を総なめにした本作は、必ず二度、三度と読みたくなる究極の徹夜本です。


どんでん返し系の作品は多々あれど、この作品の結末の結び方、悪くない。

いいのかよそれで! って突っ込みを入れつつも、最後に絶望じゃなくて希望が残るミステリーは心地よい。

ストーリーはものすごく、残酷だったりやるせなかったりするのに、最後はなんだかんだ、まぁそれでいいか、って思わせる、

作者の楽観的というかポジティブさが感じられて好ましい。


本作品の「大仕掛け」には、まず万人がダマされるであろう。

しかし、評価すべきは「大仕掛け」以外の部分だと思う。

この仕掛けがなくても本作品はハードボイルド作品として、十分に楽しめると思う。

タイトルにある「葉桜」の意味するところ---読んでいる最中には特段気に留めることもなく、せいぜい気取った書名だなという程度にしか思いが至らなかったのです---が最後に明かされて、書を閉じた後に自身の来し方と行く末に思いを馳せずにはいられません。

私はどんな「葉桜」の季節を迎えるのだろうか。

本書の中に自身の今の姿や今後の人生における指針を見出したとき、読書の楽しみはこの上もなく高まるものです。

本書はまさにそんな喜びをいっとき与えてくれた愉快な書といえる一冊です。


やられた。騙された。

たっぷりと張られた伏線をこうも見事に無視してしまっていたとは……。

著者の叙述による見事なまでのミスリード。

やられた。

そして快感。
 
だが、この物語で良かったのはトリッキーな部分だけではない。

最後の‘二人’の会話。

この深さ、全てを達観した上で尚かつ前向きに考え諭す言葉言葉の素晴らしさ。

生きるということに明確な力をにくれる名作!









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お勧めの本『タイムライン』マイクル クライトン

フランスにある14世紀の遺跡で大学の歴史調査チームが発掘したのは、なんと現代製の眼鏡のレンズと助けを求めるメモだった。

その直後、調査チームはスポンサーでもある巨大ハイテク企業ITCによって緊急に呼び出された。

遺跡発掘の責任者であるジョンストン教授の救出に協力してほしいというのだ。

リーダーのマレクをはじめ、チームのメンバーたちは耳を疑った。

その行き先というのが、14世紀のフランスだったからだ。


出てすぐに買って、初めて読んだときはかなり興奮しました。

しばらく私のベスト1の本でした。

今回映画化になって、読んでから数年たっていたのでまた読み直してみたら、前回読んだときよりさらに入り込むことができて、すごく楽しかく読めました。

映画とは話がぜんぜん違うので、映画は観たけど小説はまだという人はぜひぜひ読んでみてほしいと思います。

アンドレが好きで、<私はよい人生を選んだ>という言葉がかなり心にきます。最後の数ページは何度も読んでしまいます。

私は量子論はあまり分からないので歴史物語の感覚で読みました。



砂漠の真っ只中で倒れていた老人、遺跡から発見された「HELP ME」と書かれたメモ、奇妙な変死……謎の痕跡を辿っていった先にあったのは、「タイムライン」であった。

5人の若者が14世紀に取り残された教授を救出すべく《現在》を旅立った。

量子工学を応用したタイムトラベル(厳密にいうと‘移動’ですが)が題材になったSFです。

誰も取り上げないような題材、しかも知性的なおもしろさが感じられるのは、マイクル・クライトンだからでしょう。

既に映画になった「ジュラシックパーク」と同じくらいのおもしろさがあるといっても過言ではありません。









posted by ホーライ at 04:41| Comment(0) | TrackBack(0) | SF・ミステリィ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月21日

お勧めの小説★透明な家族と一緒に住む?『キッチン』吉本ばなな(泉鏡花文学賞受賞)

お勧めの小説★透明な家族と一緒に住む?『キッチン』吉本ばなな(泉鏡花文学賞受賞)

家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる―。

唯一の肉親の祖母を亡くしたみかげが、祖母と仲の良かった雄一とその母(実は父親)の家に同居する。

日々のくらしの中、何気ない二人の優しさにみかげは孤独な心を和ませていくのだが…。

世界二十五国で翻訳され、読みつがれる永遠のベスト・セラー小説。

泉鏡花文学賞受賞。



表面的には恋愛の話だと思いますが、よしもとさんが描きたかったのは恋愛ではなく、この小説のしんとした透明な夜の感じとか、雰囲気、空気感だと思います。

読んでいると、この小説に出てくるシーンが、細かいディティールまで描かれて、私の頭の中では完全に映像化しています。

それは、温度とか、匂いとか、味がしてきそうなくらい、リアルです。ここまで読者に伝わる表現力は、本当に素晴らしいです。

恋愛の話だとか、この小説から何かを読み取ろうとか思わずに、その世界観にだだ触れたい、くらいの気持ちで読んだ方が良いと、個人的には思います。

高校二年生の夏、初めてこの小説を読んで、今まで味わったことのない透明な気持ちになり、不思議な気分になったのを覚えています。

ひらがなが多く優しく柔らかい文章で読みやすいと思うので、中学生、高校生の方にも是非おススメです!



ずっと読もうと思っていましたが、遅まきながら読むことが出来ました。

きっと当時、そして高校生、20前後まではこの本を読んでも僕は理解できたか微妙なところです。

今でもそうですが、両親は一応健在であり、喪失感というものを味わっていないからです。



小説の細かい技法などのことは全くわからないのですが、物語全体が大きな隠喩になっていると思います。

とてもとても不思議な世界です。極めて非日常的。

でも自分に流れている時間もきっと他の人から見ると非日常的なんだろうな。


村上春樹?阿部公房?それよりずっとわかりやすいかな?

いや少し歳をとったからそう感じるのかな?

よしもとばななさんの考え方が、文章のところどころににじみ出ていましたが、非常に共感することができました。


よしもとばななさんは、人の死というわかりやすい悲しみの設定を利用していますが、たとえ現状が幸せだとしても自分が孤独だと気付いてしまったとき、気付きながらもそこから逃げようとしている自分に気付いたとき、非常に大きな力をこの本は与えてくれるかもしれないなと思いました。

読む人の心の具合によって玉虫のように色の変わる可能性はありますが。


あと、恋に迷っている時にもいいのかな?

忘れかけた純粋なひとつの恋の形を描いています。

心の琴線に触れる、噂に違わぬ名作だと思いました。







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2014年04月17日

千年残したい名作『果しなき流れの果に』小松 左京

N大教授大泉とK大教授番匠谷は、高校時代の同窓。

共にマッド・サイエンティストと称される夢想家である。

ある日、番匠谷が大泉のもとに古墳からの奇妙な出土品を持参した。

それは、永遠に砂が落ち続ける砂時計。

上部と下部との間には異次元空間が?


一行は再び発掘現場へ調査に赴くが、未盗掘の玄室には何もなく、羨道の先は行きどまりになっていた…。

SF界の巨匠が放つ超時空小説。

「宇宙」とは、「時の流れ」とは何かを問うSFの傑作。



時間ものSF。

ひとことで言えばそう言える。

しかし、このイマジネーションの大きさはどうだ!

こんな作品は若いときしか書けまい。



「日本沈没」からも40年近くが経とうとしている。

この作品が書かれた当時、科学の概念がどの程度だったのか、未来の展望がどのようだったのか、詳しくは知らない。

しかし、タイム・マシンの実現化は、確実に夢の中にあった。

現在では夢さえも見られない。

そんな時代だったからこそ、本作のイメージを著者が描くことができたのかも知れない。



「人類の進歩と調和」は夢と消えた。

著者の思い描いた未来に、我々は立っていないのかもしれない。

だからこそ、本作を今読む意味があると思う。

個人的には、最後に老人ふたりが静かに余生を送るところが好きだ。

彼女のそばに彼はいたのだろうか。

一生のうち、ピンポイントにでも彼は彼女を見に現れたのだろうか。

彼女の一生を思うと、読んでいて涙が浮かんでくる。



光瀬「百億の昼と〜」と並び称される作品である。

質・量ともに甲乙つけがたいが、私はこっちが好きだ。

広瀬「マイナス・ゼロ」を読んだときにも同じような感動を覚えた。

時間というものは、なぜか郷愁をさそうものだ。

おそらく、実際には二度と帰ってこないものだからであろう。

我々は、過去は振り返ることしかできないのであるから。


人間の世界を超えた奥の院にある世界を体験できる凄まじい作品。

小松左京以外の人には書けないだろう。

千年残したい名作。



非の打ち所がないとは言いませんが(特に一つのクライマックスである流れの果ての描写がはしょりすぎて甘い)エネルギッシュでドラマチックな作品でした。

前菜(プロローグ)、メインディッシュ(1-10章)、デザート(エピローグ)それぞれが味わい深く描き分けられさながらフルコース・ディナー。

そこらの作品とは食べごたえ満足感が違います。

壮大な宇宙に比べれば人間の一生なんてちっぽけなものだよ、とはならない。

1個の人間の短い一生と宇宙の歴史が最後の最後に等価に並べられる構成は圧巻で感動的です。








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2014年04月13日

驚愕の最後の2行。二度見は間違いない「イニシエーション・ラブ」乾 くるみ

僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。

やがて僕らは恋に落ちて…。


甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説―と思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。

「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。

読み終えた後が本当の始まり。

巧妙なトリックが仕込まれています。

それに気がついた時には、「あれ!?」と思わず声を出して、物語の最初のほうを読み直すほど驚きました。

こころからお勧めします







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2014年04月11日

1行で世界がひっくり返る★十角館の殺人

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の七人が訪れた。

館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。

やがて学生たちを襲う連続殺人。


ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!

’87年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作。


たった一行の記述で視界が開ける、この展開は思わず拍手を送りたくなるほど、奇抜で、鮮やかです。

最初にそのページを目にした瞬間、その瞬間にそれまでの世界が結びつき、ひっくりかえる。

読み終わってしまった今は、もう二度と同じ衝撃を味わえないことが残念ですらあります。


絶海の孤島で脱出不可能、そこで巻き起こる連続殺人。と、悪く言えば使い古されたような舞台設定ですが文章のテンポのよさと、二つの舞台の同時進行など、構成の工夫でスムーズに読み込んでいけました。

ワクワクさせる展開に(ミステリ的な意味で)、映像では再現できない構成、その伏線の張り方、そして過去の名作達に対する親愛の情がいい。




綾辻行人のデビュー作です。

「綾辻以後」という言葉が生まれたほど、彼の登場は衝撃的でした。

彼が失敗していれば、いまの本格ムーブメントがこれほど盛り上がりを見せていたかどうか、甚だ疑問であると同時に、その先駆者が綾辻行人であったということに何か宿命みたいなものを感じずにはいられません。

さて、この「十角館の殺人」ですが、数人の人間が孤島へ行き、そこでひとりまたひとりと殺されていき、最後には・・・・・・、

というようにプロットはクリスティの「そして誰もいなくなった」です。

読み始めてすぐに浮かんできた言葉が「青いな」でした。

それは、登場人物が大学のミステリ研であるとか、ニックネームで呼び合うとか、そういうところが実生活の延長をただ著しているだけのように感じられて鼻についたのです。が・・・・・・。


ネタバレになるといけないので深く触れませんが、私は、「青い」と思った時点で綾辻さんに負けていたのです。

今もはっきりと覚えています。ラスト近くの例の一行を読んだときのあの衝撃を。

頭が真っ白になり、しばらく呆然としてしまいました。

大げさではなく、5分間ぐらい動けませんでした。それほどのショックでした。

そして、「やられた! 騙された!」とひとりで叫んでいました。

気持ちのいい敗北感でした。

すべてはここから始まったのだと、いま改めて思います。








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2014年04月09日

本屋大賞受賞!『村上海賊の娘』

『のぼうの城』から六年。

四年間をこの一作だけに注ぎ込んだ、ケタ違いの著者最高傑作!

和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。

毛利は海路からの支援を乞われるが、成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていた。

折しも、娘の景は上乗りで難波へむかう。

家の存続を占って寝返りも辞さない緊張の続くなか、度肝を抜く戦いの幕が切って落とされる!

第一次木津川合戦の史実に基づく一大巨篇。



本作は、信長の本願寺包囲に対し海上からの支援を試みる村上海賊そしてそれらに関わる多くの人々を描いた歴史小説。

「のぼうの城」の和田竜が4年の歳月を本作一つに捧げた(週刊新潮連載時から評判だったが)渾身の一作と銘打つだけの、いやそれ以上の面白さが本書にはある。

いいから早く買って読め!の一言。



題材自体は必ずしも目新しいものではない。

実際、信長との決戦を控えた本願寺側の描写から始まるところでは、「ありがち?」と一瞬思ったりもした。

しかし、そこから、「毛利水軍」と一般には描かれがちな「村上海賊」の面々の生き生きとした紹介、そして、本書の主人公である「史上最強のブスただしイケメン好き」な景姫のすんごい登場っぷりへと、矢継ぎ早に進む展開を密度の濃い描写と練度の高い語り口が支える怒涛の進撃にあっという間に本作の虜になっていた。

正しく「やめられない、とまらない」



海賊モノは実際ブームであり、マンガ「ワンピース」や映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」など人々の心を奪って離さない素晴らしいエンタテイメントが近年多数生まれている。

そうした先達に負けじと、本作は映画のような躍動感ある描写またマンガのような魅力的なキャラで溢れている。

実際、上巻の後半では、ワンピースの白ひげvs海軍もかくやと正にエンタテイメントな合戦絵巻が展開される。


特に、景姫のキャラ設定は、最強の戦闘力を除けば、全てがマイナススペックという点が実に魅力的。

それでいて、ネガティブなキャラには全くなっておらず、ヒロインという言葉が全く相応しくないようで、実はヒロイン然としているところも◎。

また、歴史知識の少ない人向けに随所で丁寧な解説部分が挿入されているが、実に違和感なく読める嵌め込み方も作者の巧みさが光るところだ。




本書はタイトルにもあるように毛利方についた村上水軍の娘、景(けい)の「行きて帰りし物語」である。

理想と夢を持った破天荒な海賊の姫が現実を知り挫折するが苦難を引き受け成長するというと簡単だが、そのプロセスは戦国の戦であるが故壮絶である。

上巻は主人公の破天荒ぶりが爆発し笑えるが、下巻に入るとシリアスな展開になる。

下巻はほぼ合戦の描写なのだが、これでもかというくらい人が死ぬ。


現代に比べ命の軽さを実感するが意外とその時代はそうだったのかと思わせるのは作者の筆力によるところかもしれない。

一方で登場人物の超人ぶりは、盛り過ぎだろうと突っ込みを入れたくなるが面白いので許してしまう。



家督を守るために戦う、海賊という名の海の侍の常識に主人公はどう向き合うのか。

読みだしたら止まらないので読み始める時は注意を要する。

私は土曜日を1日使ってしまい家族からひんしゅくを買った。


ジブリでアニメ化すれば大ヒット間違いなしです。









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2014年04月07日

お勧めの小説■古典的名作■華麗なるギャツビー(グレート・ギャツビー)を読む

村上春樹が人生で巡り会った、最も大切な小説を、あなたに。新しい翻訳で二十一世紀に鮮やかに甦る、哀しくも美しい、ひと夏の物語―。

読書家として夢中になり、小説家として目標のひとつとしてきたフィッツジェラルドの傑作に、翻訳家として挑む、構想二十年、満を持しての訳業。


アメリカ東部の高級住宅街でボクはギャツビーという男と出会った。

彼は対岸にある一軒の家を眺められる場所に居を構えている。

対岸の家とはデイジーという長年の思い人が夫と幼い娘とともに暮らす場所だった。

ギャツビーはデイジーの心を再度自分に向けようと試みるのだが、ある悲劇がふりかかかる…。



私がこの小説を手にするのはこれで3度目です。

もう20年以上も前にPenguin Classics版『The Great Gatsby 』を手にしたのが最初です。

冒頭と末尾の文章の美しさに強烈な印象を受けたことを覚えていますが、比較的難解な英語で綴られた全体像は基本的な展開を読解するのでせいいっぱいだったという記憶があります。



2度目は野崎孝訳の新潮文庫版『グレート・ギャツビー 』。

こちらも日本語訳は読みやすかったという印象がありません。


今回の村上春樹訳でも文章は心なしか装飾的な気がします。

しかし今回巻末の訳者あとがきを読んであらためて分かったのは、「『グレート・ギャツビー』はすべての情景がきわめて繊細に鮮やかに描写され、すべての情念や感情がきわめて精緻に、そして多義的に言語化された文学作品であり、英語で一行一行丁寧に読んでいかないことにはその素晴らしさが十全に理解できない」小説だということです。
 
「この原文がまた一筋縄ではいかない。空気の微妙な流れにあわせて色合いや模様やリズムを刻々と変化させていく。

その自由自在、融通無碍な美しい文体についていくのは、正直言ってかなりの読み手でないとむずかしいだろう。」



村上春樹訳でその美しい文体がどこまで英語から日本語にうまく移植されたのかは分かりませんが、3度目の挑戦でおぼろげながらギャツビーの魅力が見えて気がしたのも事実です。

いずれ再度英語で手にして4度目の挑戦をする必要があるかもしれない。

そんな気分がしています。



「彼女の声、それは金にあふれた声だった。高く低く波動する尽きせぬ魅力があった」

デイズィという女性を表現する、有名な一文。

ぎらぎらの野望で短い人生を駆け抜けたぎギャツビーの原動力となったのは、この女性だった。



結局デイズィという女性は単なる愛情の対象としての女性ではなく、上流階級の象徴であり、ひいてはギャツビーにとって絶対かなえなくてはいけない『夢』であった。

それさえ手に入れる事ができれば全てを手に入れられる、約束された土地。

しかし、『夢』は実態のない、コントロールできないものだった。



クライマックスにくるまで、デイズィに対するネガティブな描写はでてこない。

怠惰で派手でぜいたくな、社交生活を繰り広げる上流階級の人々の様子に読者は虚しさを覚えるだろう。

しかしその中で唯一、デイズィは常に鈴の音のような声で、その世界の先にきらきらしたものが待っているかのように、ギャツビーを魅了する。

しかし、ギャツビーの命があっけなく奪われた後葬式にデイズィは電話のひとつも花の一輪もよこさない。

ニックは彼女の本質を次のようにみている。


「トムもデイズィもー品物でも人間でもを、めちゃめちゃにしておきながら、自分たちは、すっと、金だか、あきれるほどの不注意だか、その他なんだか知らないが、とにかく二人を結びつけているものの中に退却してしまって、自分たちのしでかしたごちゃごちゃの後片付けは他人にさせる・・・」


ギャツビーは、デイズィの家の桟橋の突端に輝く緑色の灯をみた。

その緑色の灯こそ、手にすることのできないデイズィという女性そのものだったように思える。

この物語は、夢を追わずにはいられない人間の性とその美しさを描く一方、夢につきものの、そのはかなさと虚しさを描いている。

読んだ後切なく、なにか実体のないものに郷愁を覚えるのはそこに普遍性を感じるからだろう。








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2014年04月05日

本格派ミステリィの金字塔■騙される快感「十角館の殺人」

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の七人が訪れた。

館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。

やがて学生たちを襲う連続殺人。

ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける


たった一行の記述で視界が開ける、この展開は思わず拍手を送りたくなるほど、奇抜で、鮮やかです。

最初にそのページを目にした瞬間、その瞬間にそれまでの世界が結びつき、ひっくりかえる。

読み終わってしまった今は、もう二度と同じ衝撃を味わえないことが残念ですらあります。


ワクワクさせる展開に(ミステリ的な意味で)、映像では再現できない構成、その伏線の張り方、そして過去の名作達に対する親愛の情がいい。

綾辻行人のデビュー作です。

「綾辻以後」という言葉が生まれたほど、彼の登場は衝撃的でした。

彼が失敗していれば、いまの本格ムーブメントがこれほど盛り上がりを見せていたかどうか、甚だ疑問であると同時に、その先駆者が綾辻行人であったということに何か宿命みたいなものを感じずにはいられません。

さて、この「十角館の殺人」ですが、数人の人間が孤島へ行き、そこでひとりまたひとりと殺されていき、最後には・・・・・・、というようにプロットはクリスティの「そして誰もいなくなった」です。


今もはっきりと覚えています。ラスト近くの例の一行を読んだときのあの衝撃を。

頭が真っ白になり、しばらく呆然としてしまいました。

大げさではなく、5分間ぐらい動けませんでした。それほどのショックでした。

そして、「やられた! 騙された!」とひとりで叫んでいました。

気持ちのいい敗北感でした。

すべてはここから始まったのだと、いま改めて思います。









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