2014年05月21日

人生の不条理を表した不朽の名作『ペスト』カミュ著

アルジェリアのオラン市で、ある朝、医師のリウーは鼠の死体をいくつか発見する。

ついで原因不明の熱病者が続出、ペストの発生である。

外部と遮断された孤立状態のなかで、必死に「悪」と闘う市民たちの姿を年代記風に淡々と描くことで、人間性を蝕む「不条理」と直面した時に示される人間の諸相や、過ぎ去ったばかりの対ナチス闘争での体験を寓意的に描き込み圧倒的共感を呼んだ長編。


生と死、善と悪、そして神の救済の意味を問うた長編。

かつて熱烈なキリスト教信者であったカミュは、創作を通じて神の存在を問い続けた。


「ペスト」はカミュの作品中、もっとも大きな構想、長いストーリー、たくさんの登場人物を擁した傑作だ。

タルーを始めとする登場人物は、必死に思考し、行動する。

ペストが蔓延した街は封鎖され、ストーリーは一気に加速する。

最後はどうなるのか、読者も惹き込まれる。


テーマはずしりと重いのだが、「ペスト」は娯楽小説としてのクオリティーが素晴らしく高い。

アルジェリアの港町の描写がすばらしくエキゾチック。

このノーベル賞作家の作品中、もっとも大衆的でもあると思う。

そこが特筆すべき点なのだ。


『ペスト』(仏: La Peste)は、アルベール・カミュが書いたフランスの小説。

出版は1947年。


ペストに襲われたアルジェリアのオラン市を舞台に、苦境の中、団結する民衆たちを描き、無慈悲な運命と人間との関係性が問題提起される。

医者、市民、よそ者、逃亡者と、登場人物たちはさまざまだが、全員が民衆を襲うペストの脅威に、助けあいながら立ち向かう。



よく言われるのは、この作品は第二次世界大戦時のナチズムに対するフランス・レジスタンス運動のメタファーではないかということだ。

さらに、実存主義文学の古典とも言われるが、カミュはこのレッテルを嫌っていた。

語り口は、個々のセンテンスが複数の意味を内包し、その一つが現象的な意識および人間の条件の寓意である点で、カフカの小説、とくに『審判』に通じるものがあると言われている。


カミュのアプローチは非情で、語り手である主人公は、自分たちは結局何もコントロールできない、人生の不条理は避けられないという考えを力説する。

カミュは不条理に対する人々のさまざまな反応を例示し、いかに世界が不条理に満ちているかを表している。








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2014年05月12日

科学冒険物語のひとつの完成形『ウバールの悪魔』(シグマフォースシリーズ)

激しい雷雨に見舞われた深夜の大英博物館で起きた爆破事件により、一人の警備員が犠牲になった。

博物館の学芸員のサフィア・アル=マーズ、サフィアの幼馴染みで大富豪のキャラ・ケンジントン、サフィアの元恋人の考古学者オマハ・ダンは、爆破事件がキャラの父の死の謎と関連があると知り、調査のためにオマーンの砂漠の失われた都市「ウバール」へと向かう。

一方、米国の秘密特殊部隊シグマフォースのペインター・クロウ隊長も、爆発の陰に無尽蔵のエネルギーを持つ反物質が存在していることをつかみ、身分を隠してサフィアたちに同行する。

だが、テロ組織ギルドも反物質を入手しようと狙っていた。

ギルドがペインターたちに差し向けた刺客は、ペインターのことを公私ともに知り尽くした人物だった。



GREEN BERET〈グリーンベレー〉、DELTA FORCE〈デルタフォース〉、NAVY SEALs〈ネイビーシールズ〉……米国が世界に誇る最強の特殊部隊。

だが、これらを超える最強の秘密特殊部隊があったその名は、SIGMA FORCE〈シグマフォース〉。

彼らは、殺す訓練を受けた科学者。ジェームズ・ボンドより切れ者で、危険度は2倍。

歴史×宗教×科学のハイブリッド・エンターテインメント!

全米で1300万部以上のベストセラー〈シグマフォース〉シリーズ、待望の原点の物語、遂に発売!


ロリンズの作品は、ある意味、米国の冒険小説やスパイ小説の最終段階ではないかと思えてなりません。

この人が語る世界はどこまでも真実に近いものを、あるいは4,5年したら現実になりそうなものを描き出してくれますので、あぁ、なるほどと感心しつつ読み進めてしまします。

いつも通勤時間に読んでますが、ついでにスマホで知らない地名を検索したり、画像を入手したり、結構楽しめますよ。

クライブカッスラーのイントロに似た過去のある世界から物語が始まるところ、地球規模の考古学、物理学、歴史、政治、宗教等の断片を組み合わせて見事に過去の出来事を再現する手腕等、すごすぎると言いたい。

本当は、日本の作家にもこんな作風の人が出てくることを願ってやまないのですが、どこか中途半端な作品になってしまうんですよね。

まぁ、ブツブツ言ってもしょうがないし、ここはクロウ隊長からピアース隊長へ引き継がれていくシグマの活躍を楽しむことで納得しておきたいと思います。








posted by ホーライ at 05:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 冒険もの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月10日

僕にも言わせてくれ『長いお別れ』レイモンド・チャンドラー著

好きなハードボイルド小説は?と聞かれたら、おそらく8割近くの人がこの作品かダシール・ハメットの『マルタの鷹』を挙げるだろう。

この小説はハードボイルド界ではそれ程の金字塔である。

もし本格派ミステリが好きな人がこの小説を読んだら拍子抜けしてしまうかもしれない。

特にすごいトリックがあるわけでもないし、背景に過去の怨念から来る謎があるわけでもない。


どのレビューでも書かれているがこの小説の魅力はやはり単純に文章の素晴らしさにある。

人物、情景の描写とマーロウのワイズ・クラック、これにつきる。

特に最初にテリー・レノックスという人間をロールスロイス・シルヴァーレイス一つで端的にあらわすシーンと、マーロウとレノックスがギムレットを飲みあうバーの描写は秀逸。

生涯忘れられない情景になります。

ワイズ・クラックについては他のレビューで多く取り上げられているのでそちらを参考にしてください。

いつか使いたいセリフのオンパレードです。

この小説は清水俊二さんという人が訳されています。

この方は確か戸田奈津子さんの師匠で翻訳家の大家みたいな人です。

訳は大変素晴らしく、日本人にとってはこの人なくしてマーロウなしと言ってもいいくらいですが、大変失礼なんですけど実は原著と比べると仮定法などでわかりにくい部分(当然僕にもわかりませんけど)を少々飛ばしてたりもするので出来ればこの小説を読み終わったら原著にもがんばって挑戦してほしいです。

ビートルズの歌詞あたりで鍛えれば、なんとか読めるようになりますので是非がんばってほしいです。

それ程文章が素晴らしい作品なんです。


村上春樹の訳本もある。

どちらも甲乙つけがたい。














posted by ホーライ at 22:30| Comment(0) | TrackBack(0) | SF・ミステリィ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

僕も冒険を始めたのが『羊をめぐる冒険』村上春樹

僕の原点は村上春樹の『風の歌を聴け』だが、その主人公をシリーズにして書かれたのが『羊をめぐる冒険』。

こんな小説を書く人が日本にいたのか、とびっくりした。

それ以来、僕は村上春樹びたり。

「僕」と「ねずみ」の物語から、この僕の物語も始まった。









posted by ホーライ at 14:45| Comment(0) | TrackBack(0) | より楽しく生きるために | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月06日

不死は幸せか?『命の遺伝子』高嶋 哲夫著

ベルリンでの講演直後、天才遺伝子科学者トオル・アキツは何者かに攫われ、爆破事件で吹き飛ばされた男の手首を見せられた。

四十代のものに見える手首の主は、生きていれば百歳を超えるナチス武装親衛隊の大佐だという。

謎を解明するためブラジルの奥地へ向かったトオルの前に、ナチスの壮大な陰謀が姿を現す。


高嶋哲夫氏は、日本では過小評価されていると思う。

「イントルーダー」「スピカ」「トルーマンレター」「ペトロバクテリアを追え!」「ミッドナイトイーグル」など、どれをとっても超一流の作品で、私個人としてはハリウッドのプロデューサーが読んだらマイケル・クライトンのように、ほとんどすべての著作が映画化されてもおかしくないだろうな、と思っていた。

そして今回の「命の遺伝子」だ。

本の帯にも「ハリウッドを超えた」と書かれていたが、文字通り映画化を前提に考えられたかのような作品だ。

キャラクター、舞台、予想のつかない展開。日本映画界はとっとと映画化権を抑えないと、全部ハリウッドに持っていかれてしまうぞ。


トオル・アキツが主人公。ドイツのベルリンから物語は始まる。

彼は遺伝学者である。

そのころ,ネオナチの集会で爆発があった。

ナチスの戦犯を追っている組織が,爆発の後,ある人の手首を回収した。

その人物の推定年齢,112歳。

しかし,その手首を見る限り,彼は40代としか思えない。いったいどうなっているのか…
 

最初に提示された謎に加え,アクション・シーンもあり,エンターテインメントとしては十分に成立している。

引きこまれて最後まで,というほどではないが,楽しみながら読める。

文章もすっきりしていて読みやすい。

ただ,遺伝子スリラーとしては最高のものとはいえない。

私が読んだ作品の中では,「イエスの遺伝子」が傑作だった。

それほどではないが,この小説のテーマも悪くはない。

十分に読ませる力は持っている。


ある登場人物が言う。

「人は死があるからこそ人と言えるのです」と。

私たちはみんな不老不死を願う。

しかし,それが実現した時,果たして幸せといえるのか。

家族も友人も子供も,もちろん師と呼べる人も,すべて死んでいく。

しかし,自分だけは生き続け,愚かな人間たちの営みを見続けなければならない…そう考えた時に,死は恐怖であると同時に一種の救いでもあることに気が付く。


人間らしい死が迎えられればいい。

それが神の望みならば…この本のテーマは根元的で,重い。

「永遠なんてない。今が全てだ。」

「運命はDNAが決めるのではない。自分で切り拓いていくものだ。」

・・・・・・など等、金言も多いことも楽しめる。






posted by ホーライ at 03:03| Comment(0) | TrackBack(0) | SF・ミステリィ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月05日

本格ミステリーの金字塔★『殺戮にいたる病』我孫子 武丸著

永遠の愛をつかみたいと男は願った――

東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。

犯人の名前は、蒲生稔!

くり返される凌辱の果ての惨殺。

冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。


惨殺シーンは気分が悪くなるほど残酷、少し悪趣味かなと思った。

しかし、読み易く想像を膨らませる見事な表現力はすごいです。

読み始めに、エピローグで死んだ人は誰なんだろうと考えました。

読み進める内にその人の像は頻繁に変わっていくと思います。

登場人物が少ないので、結末は限られるんじゃないかと考えてました。

しかしラストに近づくにつれ、胃がキリキリと痛むような緊張感を味わいます。

先の展開が全く読めない、躍動感を感じる怒涛の展開。

そしてラストのページを読んで唖然としました。

はぁ?どういう事だ、と。少し考えて、俺は騙されていたと気付きました。

また読み返さねばと思わせる衝撃のラストです。

こんな騙しが用意されてるとは…。途中で気付いた人は天才です。

全部読んでも混乱しています。

なので、もう一度しっかり読み直さねばという気持ちにさせられます。

確かに不快な描写もありますが、最後に読んで良かったと思える作品です。



名作との評判は聞いていました。

かなり身構えて、邪推しながら読み進めていたにも関わらず、全く見破れませんでした。

読み終わったあと一瞬理解できませんでしたが、読み返すとじわじわとくるものがあり、読めば読むほど巧いミスリードだと気付かされます。


猟奇的な描写は我慢して読む必要がありましたが、この結末はやはり読んでおくべきです。

ご多分に漏れず唖然とできること間違いなしです。








posted by ホーライ at 04:15| Comment(0) | TrackBack(0) | SF・ミステリィ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月02日

戦慄のバイオテロ小説に、僕が働いていた会社が実名で出ていた。『コブラの眼』

バイオテロを描いた「コブラの眼」という小説に、昔、僕が働いていたフランス系の製薬会社「ローヌ・プーラン」の実名が出ていた。

「ローヌ・プーラン」は、今は「サノフィ」になっている。

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ローヌ・プーランとは・・・・・・

1928年に、ローヌ化学工場会社(Société des Usines Chimiques du Rhône)とプーラン兄弟社(Établissements Poulenc Frères)が合併してローヌ・プーランを称した。

ローヌ社は1895年にローヌ川流域の化学工場が合同しリヨンで創業された。

プーラン社はパリで薬種商エチエンヌ・プーランにより創業され、その息子エミール(作曲家フランシス・プーランクの父に当たる)とカミーユ兄弟の代(1900年)に製薬会社として設立された。

その後、フランスを代表する総合化学・製薬企業として発展し、1980-90年代には国策企業として国有化された。

これ以後、医薬品を中心に据える方針をとった。

1990年にはアメリカの製薬企業ローラー(Rorer)を合併し、グループの中核である医薬品部門はローヌ・プーラン・ローラー(Rhône-Poulenc-Rorer)となった。

1997年には、化学品部門が分離しローディア(Rhodia)として現在に至る(日本法人はローディア株式会社)。

1999年、ローヌ・プーランはヘキストと合併しアベンティス(Aventis)となった。

さらにアベンティスは2004年、サノフィ・サンテラボ(Sanofi-Synthélabo)と合併し、サノフィ・アベンティスとなった。

農薬部門はヘキストとの合併により、アベンティス・クロップサイエンス(Aventis CropScience)となり、さらに2002年にはバイエルに買収された。

ローヌ・プーランにより創設された賞として、ローヌ・プーラン科学図書賞(その後アベンティス科学図書賞、現在は王立協会科学図書賞Royal Society Prizes for Science Books)などがある。

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この小説の本筋とは関係の無いところで社名が実名で出てきたのだけれど、どう寛大の眼で読んでも、ローヌ・プーランを「好意的」には紹介していない。

と言うか、むしろ、悪意すら感じる。

でも、まぁ、そうなんだろうな。

製薬会社というのはちょっと理性がほころんだら、「生物兵器」も「化学兵器」も簡単に作れるのだから、世間から見れば、ちょっと危ない存在と見えるのだろう。

今でも、製薬会社は医師会や厚生労働省とつるんで暴利をむさぼっている、という言葉をネット上で見かける。

たとえば、それは「抗がん剤」のことだったり、「向精神薬」のことだったりする。

いろんなことを言われながらも、僕たちは、ただひたすら、より良い薬を開発するしかないね。


で、本作だけど、これは・・・・・

孤独なテロリストの武器は、遺伝子操作で作られた恐るべきウイルスだった…。

衝撃のベストセラー「ホット・ゾーン」から3年を経てプレストンが放つ、エボラ・ウイルスを超えた戦慄。

前作のホット・ゾーンもノンフィクションとして相当面白かったけど、その作者がフィクションを書いたらどんなになるだろうと思って買ってみた。

そしたら、怖くて怖くて、そして面白い。

人物描写からウィルスに関する科学的な考察まで、読んでいて全て納得できます。

本書を読んで、クリントン大統領が「対生物兵器テロ」に対する予算を増額したとかしないとか。






posted by ホーライ at 06:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学を題材とした小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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