お勧めの面白い本★『幻世(まぼろよ)の祈り―家族狩り〈第1部〉』
高校教師・巣藤浚介は、恋人と家庭をつくることに強い抵抗を感じていた。
馬見原光毅刑事は、ある母子との旅の終わりに、心の疼きを抱いた。
児童心理に携わる氷崎游子は、虐待される女児に胸を痛めていた。
女子高生による傷害事件が運命の出会いを生み、悲劇の奥底につづく長き階段が姿を現す。
山本賞受賞作の構想をもとに、歳月をかけて書き下ろされた入魂の巨編が、いま幕を開ける。
重い話である。
しかしこのテーマに正面から向き合って、ストーリーを語り尽くさなければならない、と言う作家の使命感が伝わってくる。
凄い作家だ。
昔だったら石川達三、ちょっと斜に構えたら倉橋由美子などが取り上げそうなテーマに思える。
家庭内暴力を切り口に、親子の愛、対話の重要性、人同士の信頼とその回復など、いろいろな課題を筆者は投げかける。
各登場人物には言動に至る理由があり、アプローチの仕方には硬軟があるが、みんなそれなりの正当性がある。
彼らは自分の中の二面性に気づき悩み苦しむのだが、自分一人では問題を処理しきれず悶々として追いつめられてしまう。
彼らを救うことが出来るのは対話が出来る相手だ。
対話が理解を生む、まずは対話に至る道を切り開くこと。
そういうメッセージも発信しているようだ。
ここに作家の信じる人間の本来の姿、救いに至る道があるように思える。
登場人物も読者も、そしておそらく作家自身も答えを見いだそうともがいている。
・・・そんな印象を抱きながら読んでいると文庫版5分冊もあっと言う間だ。
![]() 幻世(まぼろよ)の祈り |