隣に座った女性は、よく行く図書館で見かけるあの人だった…。
片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。
乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。
恋の始まり、別れの兆し、途中下車―人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。
ほっこり胸キュンの傑作長篇小説。
阪急今津線。
全部で8駅。
片道たったの15分という電車を舞台にした短編連作です。
出会って恋が始まる男女のすぐ側には、元婚約者の結婚式で闘ってきた女がいる。
彼女が降りるのを見送るカップルは、身勝手な暴力男と彼の横暴に耐えている女。
偶然乗り合わせている彼らにはそれぞれの人生があって、電車に乗っているわずかの間に、彼らの人生がほんのいっとき交わる。
この今津線というのは作者が住んでいるところだそうで、ツバメの駅なども、本当にあるそうです。
「空の中」「海の底」のような大事件が起こるわけではなく、ほんの日常の一部を描いたほのぼのとした雰囲気の本でした。
若い本好きの男性が図書館で好みのタイプの女性と出会い交際に発展する場面で若き日を思い出し、胸をギュッと鷲掴みにされる。
女子大生が我侭で暴力ダメ男と別れを決意する場面で、そうだ!そんな男はダメだぞ!と助言したおばあちゃんの後ろでエールを送る。
美人OLが5年も付き合ってきた彼氏を「ちゃっかり女」に横取りされ結婚式でささやかな復讐を果たすが自身も傷ついていれば、そんな馬鹿な奴はこっちから願い下げだ!怒りつつ、一方で、そんな間抜けが居るか?とか、その「ちゃっかり女」が自分の娘だったらどうしよう?と思いつつ、自分のささやかな人生の分岐点を振り返る。
各駅毎に与えられたそれぞれのエピソードに喜んだり、おろおろしたり、怒ったりと、作者の術中にどっぷり嵌っている自分がいた。恋愛って良いなーと。
人生に疲れたら、ちょっといいよ。
しかし、この作品は軸が有る。
それは、義である。
正義という程偉そうなものではなく、人が人として生きていくうえでのマナーみたいなものだ。
それは実はかなり強力なエネルギーを作中から凛として放出している。
このエネルギーは健全でまともな精神を持つ良き人や人生これからの若い人には生きる活力として機能するだろう。
人に誇れるような人生を構築したいと思いながら行動が伴っていない私のようなダメ親父には痛みを伴う力となる。
貴方は相手に義を尽くしていますか?自分に誇りがもてますか?と。
良薬口に苦し。
足つぼで痛いつぼを微笑みながら押してくる整体士のような本だ。
しかも、一見やさしそうで器量の良い整体士だから困る。
痛い目にあうと知りつつまた行きたくなる。
もし貴方が私のように少し後ろめたい人生を歩んできたダメ親父なら、取り扱いに注意されたし。
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