四十代のものに見える手首の主は、生きていれば百歳を超えるナチス武装親衛隊の大佐だという。
謎を解明するためブラジルの奥地へ向かったトオルの前に、ナチスの壮大な陰謀が姿を現す。
高嶋哲夫氏は、日本では過小評価されていると思う。
「イントルーダー」「スピカ」「トルーマンレター」「ペトロバクテリアを追え!」「ミッドナイトイーグル」など、どれをとっても超一流の作品で、私個人としてはハリウッドのプロデューサーが読んだらマイケル・クライトンのように、ほとんどすべての著作が映画化されてもおかしくないだろうな、と思っていた。
そして今回の「命の遺伝子」だ。
本の帯にも「ハリウッドを超えた」と書かれていたが、文字通り映画化を前提に考えられたかのような作品だ。
キャラクター、舞台、予想のつかない展開。日本映画界はとっとと映画化権を抑えないと、全部ハリウッドに持っていかれてしまうぞ。
トオル・アキツが主人公。ドイツのベルリンから物語は始まる。
彼は遺伝学者である。
そのころ,ネオナチの集会で爆発があった。
ナチスの戦犯を追っている組織が,爆発の後,ある人の手首を回収した。
その人物の推定年齢,112歳。
しかし,その手首を見る限り,彼は40代としか思えない。いったいどうなっているのか…
最初に提示された謎に加え,アクション・シーンもあり,エンターテインメントとしては十分に成立している。
引きこまれて最後まで,というほどではないが,楽しみながら読める。
文章もすっきりしていて読みやすい。
ただ,遺伝子スリラーとしては最高のものとはいえない。
私が読んだ作品の中では,「イエスの遺伝子」が傑作だった。
それほどではないが,この小説のテーマも悪くはない。
十分に読ませる力は持っている。
ある登場人物が言う。
「人は死があるからこそ人と言えるのです」と。
私たちはみんな不老不死を願う。
しかし,それが実現した時,果たして幸せといえるのか。
家族も友人も子供も,もちろん師と呼べる人も,すべて死んでいく。
しかし,自分だけは生き続け,愚かな人間たちの営みを見続けなければならない…そう考えた時に,死は恐怖であると同時に一種の救いでもあることに気が付く。
人間らしい死が迎えられればいい。
それが神の望みならば…この本のテーマは根元的で,重い。
「永遠なんてない。今が全てだ。」
「運命はDNAが決めるのではない。自分で切り拓いていくものだ。」
・・・・・・など等、金言も多いことも楽しめる。
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