ヒマラヤの小国・パスキムは、独自の仏教美術に彩られた美しい王国だ。
新聞社社員・永岡英彰は、政変で国交を断絶したパスキムに単身で潜入を試みるが、そこで目にしたものは虐殺された僧侶たちの姿だった。
そして永岡も革命軍に捕らわれ、想像を絶する生活が始まった。救いとは何かを問う渾身の超大作。
大作。
こんなにいっぺんに、たくさんのことを語りかける作品は他にないんじゃないの、と思うくらい、さまざまなことを問うている。
美とは何か、宗教とは何か、政治とは、国とは、人間とは・・・。
なのに盛り込みすぎの感もなく、内容に破綻がない。
架空の国の物語なのに、絵空事の物語とは全く感じられず、強い吸引力で小説世界に引き込んでゆく。
主人公・永岡とパスキムという国が、どういった運命をたどるのか、追いかけずにはいられない。
没頭してしまう。
すごい。
美の鑑賞者であり賛美者である永岡。
培われた歴史と文化の中で生み出される奇跡のような美は、何よりも尊く、人の命を代償にしてでも守り抜かなければならない、と考える彼の価値観。
不遜ながらも高邁な彼の精神は、安全で豊かな暮らしを当然のこととして享受しうる基盤があるからこそのものだろう。
洗練された現代人であった永岡が、原始的な生活を強いられたとき、彼の心はどう変わるのか。
変わらないのか。そしてもし、それが自分だったら?つきつけられる疑問は、難しく、怖い。
さらりと軽く楽しく読み流せる本ではないが、読み応えは満点。タイトルの堅さとページの厚さで、敬遠しないでほしい。
![]() 弥勒 講談社文庫 / 篠田節子 【文庫】 |
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