『のぼうの城』から六年。
四年間をこの一作だけに注ぎ込んだ、ケタ違いの著者最高傑作!
和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。
毛利は海路からの支援を乞われるが、成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていた。
折しも、娘の景は上乗りで難波へむかう。
家の存続を占って寝返りも辞さない緊張の続くなか、度肝を抜く戦いの幕が切って落とされる!
第一次木津川合戦の史実に基づく一大巨篇。
本作は、信長の本願寺包囲に対し海上からの支援を試みる村上海賊そしてそれらに関わる多くの人々を描いた歴史小説。
「のぼうの城」の和田竜が4年の歳月を本作一つに捧げた(週刊新潮連載時から評判だったが)渾身の一作と銘打つだけの、いやそれ以上の面白さが本書にはある。
いいから早く買って読め!の一言。
題材自体は必ずしも目新しいものではない。
実際、信長との決戦を控えた本願寺側の描写から始まるところでは、「ありがち?」と一瞬思ったりもした。
しかし、そこから、「毛利水軍」と一般には描かれがちな「村上海賊」の面々の生き生きとした紹介、そして、本書の主人公である「史上最強のブスただしイケメン好き」な景姫のすんごい登場っぷりへと、矢継ぎ早に進む展開を密度の濃い描写と練度の高い語り口が支える怒涛の進撃にあっという間に本作の虜になっていた。
正しく「やめられない、とまらない」
海賊モノは実際ブームであり、マンガ「ワンピース」や映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」など人々の心を奪って離さない素晴らしいエンタテイメントが近年多数生まれている。
そうした先達に負けじと、本作は映画のような躍動感ある描写またマンガのような魅力的なキャラで溢れている。
実際、上巻の後半では、ワンピースの白ひげvs海軍もかくやと正にエンタテイメントな合戦絵巻が展開される。
特に、景姫のキャラ設定は、最強の戦闘力を除けば、全てがマイナススペックという点が実に魅力的。
それでいて、ネガティブなキャラには全くなっておらず、ヒロインという言葉が全く相応しくないようで、実はヒロイン然としているところも◎。
また、歴史知識の少ない人向けに随所で丁寧な解説部分が挿入されているが、実に違和感なく読める嵌め込み方も作者の巧みさが光るところだ。
本書はタイトルにもあるように毛利方についた村上水軍の娘、景(けい)の「行きて帰りし物語」である。
理想と夢を持った破天荒な海賊の姫が現実を知り挫折するが苦難を引き受け成長するというと簡単だが、そのプロセスは戦国の戦であるが故壮絶である。
上巻は主人公の破天荒ぶりが爆発し笑えるが、下巻に入るとシリアスな展開になる。
下巻はほぼ合戦の描写なのだが、これでもかというくらい人が死ぬ。
現代に比べ命の軽さを実感するが意外とその時代はそうだったのかと思わせるのは作者の筆力によるところかもしれない。
一方で登場人物の超人ぶりは、盛り過ぎだろうと突っ込みを入れたくなるが面白いので許してしまう。
家督を守るために戦う、海賊という名の海の侍の常識に主人公はどう向き合うのか。
読みだしたら止まらないので読み始める時は注意を要する。
私は土曜日を1日使ってしまい家族からひんしゅくを買った。
ジブリでアニメ化すれば大ヒット間違いなしです。