2014年07月02日

超お勧めの本★『種痘伝来』日本の〈開国〉と知の国際ネットワーク

超お勧めの本★『種痘伝来』日本の〈開国〉と知の国際ネットワーク


1798年にジェンナーが発明し瞬く間に世界にひろがった種痘。

しかし「鎖国」政策下の日本への導入には50年の歳月を要した。

最新技術を日本に伝え、広めようとする苦闘のなかで形成されていった国内外の医師や学者の知的ネットワークを辿りながら、その後の日本の近代化を準備することにもなった彼らの営みを生き生きと描き出す。



感染率だけでなく致死率(少なくとも20%以上)も高い天然痘は1980年にWHOが根絶宣言を行うまで、人類にとって最も危険な伝染病の一つであった。

しかも、天然痘に罹患した場合に有効な治療方法はなく、ジェンナーの牛痘による種痘の発明によって初めて人類は安全で有効な対策を手に入れた。

本書は、1798年にジェンナーがその研究成果を発表した種痘の伝播、さらにはそれが日本にどのようにもたらされ、日本国内でどのように伝播していくか、その伝播を担った人々たちとその人々を結びつけたネットワークについて描いたものである。


基本的には医学史に属すると思うが、門外漢の私が読んでも、理解に困難を感じることはなかった。

ジェンナーが種痘を初めて行ったぐらいしか知らなかった私にとって、ジェンナーの発明以前の天然痘対策である人痘種痘法(人の天然痘ウイルスを利用したワクチン療法)はもちろんのこと、なぜ牛痘によるワクチン療法が画期的だったのか、1798年から1803年までの5年の間にヨーロッパの主要国でジェンナーの本が翻訳され、さらには植民地での接種も開始されているといった伝播のスピードなど、驚くことばかりであった。


さらに、日本にその情報がもたらされたのは、ヨーロッパと遜色のない1803年であったが、痘苗の搬送に幾度も失敗。バタヴィア経由での痘苗による種痘は、ようやく1849年になって成功する。

しかし、ひとたび成功すると、ほぼ半年で日本全土で種痘が行われるようになっていく。

これらの苦闘とともに、情報の到達から種痘の普及までの約半世紀の間に、増加した蘭方医と一部だが漢方医(合わせて7人の医師について特に具体的に書かれている)によって築かれたネットワークが、どのような形で貢献し関与したかが詳述される。


ジェンナーが種痘の技術を公開し、痘苗を請われるままに分け与えたこと、高名なヨーロッパの医学者たちがイギリスの一地方の開業医でしかなかったジェンナーの研究をいち早く評価したこと、オランダ商館長や商館医たちが天然痘を予防するために痘苗を日本に運ぼうと努力したこと、少なくない医学者が弾圧される危険がありながらも蘭方を志し、自らの近くにいる権力者である大名たちを説得し、その子に種痘を施したこと。

そのどれもが、感動を呼ぶ。


もちろん個々の医師の中には功名心を動機としたものもいたかもしれないが、人の命、特に子どもの命を救うため、というのが根底にある動機であったことは間違いない。

そういった人が持つ“善意”とともに、ある種の普遍的な知識(この場合は、医学)を基礎とした横(水平)に広がるネットワークが持つ素晴らしさを改めて実感することができた。









posted by ホーライ at 04:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学を題材とした小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月25日

お勧めの本★『論文捏造』!!

お勧めの本★『論文捏造』


科学の殿堂・ベル研究所の、若きカリスマ、ヘンドリック・シェーン。

彼は超電導の分野でノーベル賞に最も近いといわれた。

しかし2002年、論文捏造が発覚。

『サイエンス』『ネイチャー』等の科学誌をはじめ、なぜ彼の不正に気がつかなかったのか? 

欧米での現地取材、当事者のスクープ証言等によって、現代の科学界の構造に迫る。

なお、本書は国内外、数多くのテレビ番組コンクールで受賞を果たしたNHK番組を下に書き下ろされたものである。

【本書は科学ジャーナリスト大賞2007を受賞いたしました】



本書の元になったNHK特集番組『史上空前の論文捏造』は、次の4つの賞を受賞するなど、話題作でした。

(1)バンフ・テレビ祭 最優秀賞

(2)アメリカ国際フィルム・ビデオ祭クリエイティブ・エクセレンス賞

(3)アルジャジーラ国際テレビ番組制作コンクール銅賞(調査リポート部門)

(4)科学技術映像祭・文部科学大臣賞


本書は、気鋭の”看板ディレクター”が番組では紹介することのできなかった莫大な量に上る取材内容を詳細にひもときながら、事件の真相やそこに潜む問題性をより深く考察するものです。



最近のSTAP細胞論文問題で発覚したのとまったく同じ構造だというのが面白いところ。

論文の共著者は自分の担当部分以外無頓着でチェックもしない。

ネイチャーやサイエンスなど論文審査する側も、そもそも研究機関が内部チェックできなかったものを、外部の機関が査読で見つけられるわけがない、と匙を投げる。

性善説に立ち、研究者を疑わないので、他の殆どの科学者は再現実験が出来なくても、特許に絡んで明かされない秘密があるのでは、とまで考える。

しかし、少数の疑問をもった研究者によって論文でのデータやグラフの使い廻しが指摘され、調査によって捏造が発覚。実験ノートや生データ、実験サンプルもきちんと残っておらず、そもそも実験が実際に行われていたかまで現在では疑問とされる。


小保方さんは現代のヘンドリック・シェーンになってしまうんでしょうか?








posted by ホーライ at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学を題材とした小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月02日

戦慄のバイオテロ小説に、僕が働いていた会社が実名で出ていた。『コブラの眼』

バイオテロを描いた「コブラの眼」という小説に、昔、僕が働いていたフランス系の製薬会社「ローヌ・プーラン」の実名が出ていた。

「ローヌ・プーラン」は、今は「サノフィ」になっている。

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ローヌ・プーランとは・・・・・・

1928年に、ローヌ化学工場会社(Société des Usines Chimiques du Rhône)とプーラン兄弟社(Établissements Poulenc Frères)が合併してローヌ・プーランを称した。

ローヌ社は1895年にローヌ川流域の化学工場が合同しリヨンで創業された。

プーラン社はパリで薬種商エチエンヌ・プーランにより創業され、その息子エミール(作曲家フランシス・プーランクの父に当たる)とカミーユ兄弟の代(1900年)に製薬会社として設立された。

その後、フランスを代表する総合化学・製薬企業として発展し、1980-90年代には国策企業として国有化された。

これ以後、医薬品を中心に据える方針をとった。

1990年にはアメリカの製薬企業ローラー(Rorer)を合併し、グループの中核である医薬品部門はローヌ・プーラン・ローラー(Rhône-Poulenc-Rorer)となった。

1997年には、化学品部門が分離しローディア(Rhodia)として現在に至る(日本法人はローディア株式会社)。

1999年、ローヌ・プーランはヘキストと合併しアベンティス(Aventis)となった。

さらにアベンティスは2004年、サノフィ・サンテラボ(Sanofi-Synthélabo)と合併し、サノフィ・アベンティスとなった。

農薬部門はヘキストとの合併により、アベンティス・クロップサイエンス(Aventis CropScience)となり、さらに2002年にはバイエルに買収された。

ローヌ・プーランにより創設された賞として、ローヌ・プーラン科学図書賞(その後アベンティス科学図書賞、現在は王立協会科学図書賞Royal Society Prizes for Science Books)などがある。

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この小説の本筋とは関係の無いところで社名が実名で出てきたのだけれど、どう寛大の眼で読んでも、ローヌ・プーランを「好意的」には紹介していない。

と言うか、むしろ、悪意すら感じる。

でも、まぁ、そうなんだろうな。

製薬会社というのはちょっと理性がほころんだら、「生物兵器」も「化学兵器」も簡単に作れるのだから、世間から見れば、ちょっと危ない存在と見えるのだろう。

今でも、製薬会社は医師会や厚生労働省とつるんで暴利をむさぼっている、という言葉をネット上で見かける。

たとえば、それは「抗がん剤」のことだったり、「向精神薬」のことだったりする。

いろんなことを言われながらも、僕たちは、ただひたすら、より良い薬を開発するしかないね。


で、本作だけど、これは・・・・・

孤独なテロリストの武器は、遺伝子操作で作られた恐るべきウイルスだった…。

衝撃のベストセラー「ホット・ゾーン」から3年を経てプレストンが放つ、エボラ・ウイルスを超えた戦慄。

前作のホット・ゾーンもノンフィクションとして相当面白かったけど、その作者がフィクションを書いたらどんなになるだろうと思って買ってみた。

そしたら、怖くて怖くて、そして面白い。

人物描写からウィルスに関する科学的な考察まで、読んでいて全て納得できます。

本書を読んで、クリントン大統領が「対生物兵器テロ」に対する予算を増額したとかしないとか。






posted by ホーライ at 06:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学を題材とした小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする